インタビュー #病気

子どものチック症とは?症状や治療の判断ポイントを児童精神科医が解説

2023年8月10日 15:53

激しくまばたきをしたり、何度も首を振る仕草を見て「これってクセなのかな?」と疑問に感じたことはないでしょうか?もしかしたらそれは「チック症」かもしれません。

今回は児童精神科医のさわ先生に「子どものチック症」についてインタビュー。どんな症状が出るのか、すぐに治療の必要があるのかなどについて詳しくお話を伺いました。

チック症とは?

チック症とは本人の意思とは無関係に、体の一部がすばやく動いたり声や音を発してしまい、それを何度も繰り返してしまう疾患です。原因ははっきりとは解明されておらず、脳の働きを調整する神経伝達物質に何らかの関係があるのではないかと言われています。

子どもの頃に発症することがほとんどで5歳から7歳頃が最も多く、男女比では男の子の方が3倍多いとされています。またチック症はそこまで珍しい疾患ではなく、10人に1、2人くらいの割合で見られるもので、90%以上の患者さんが1年以内に自然に治ります。

チック症の種類と主な症状

チックには症状によって大きく2つの種類があり、それぞれ単純性と複雑性で異なる症状が見られます。

音声チックの症状

よく見られるのが咳払いです。また「ああ」などの短い言葉を口にしたり、奇声を上げる、鼻を鳴らすといった音を発するものなどが単純性音声チックに分類できます。複雑性音声チックは、相手の発した言葉の語尾を何度も繰り返したり、その場に相応しくない卑猥な言葉や他人を罵倒する言葉を言ってしまう「汚言症」などが特徴です。

運動性チックの症状

まばたきや首をすくめたり小さく振ったり、顔をしかめるといった身体の動きが、単純性運動性チックではよく見られる症状になります。複雑性運動性チックの場合は、意味もなく何かを触ったり、突然飛び上がったりなどの行為が見られます。一見目的がありそうでよく分からないのが複雑性の特徴です。

トゥレット症候群とは?

音声チックと複数の運動性チックの両方が1年以上続いている状態を「トゥレット症候群」と呼びます。チックからトゥレット症候群に移行することは非常に少なく、1万人に4,5人程度と言われています。

チック症はすぐに治療が必要?

生活に支障がないなら様子見を

チック症は「病気」ではありますが、必ずしも治療が必要かというと判断が分かれるところだと思います。例えばお子さんにまばたきを繰り返すといった症状が見られた場合、それが生活に支障を及ぼさないのであれば、特に気にすることはありませんし、治療の必要もありません。親御さんが気にしすぎてお子さんを病院へ連れて行った結果、本人がチックを意識しすぎてしまい悪化するケースもあります。

集団生活が苦痛になったら治療もあり

逆に治療が必要なのは、チックの悪化によって周囲からいじめられたりからかわれて、集団生活が苦痛に感じてしまった場合です。投薬による治療が一般的ですが、もし学校に行くことが負担になって症状が悪化している場合は、環境調整として学校をお休みする提案をすることもあります。

親御さんや周囲の大人ができること

ストレスを取り除いてあげる

かつてはチックは厳しいしつけや家庭環境が原因などと言う風潮もありましたが、それらのストレスが原因ではないことは前述した通りです。ただしストレスが発症のきっかけになったり、発症後の悪化の要因になることは考えられます。普段の生活の中で子どもの負担になっていることや、少し忙しくしすぎているかもと感じたら、見直してあげることで軽減することもあります。

指摘したり意識させない

子どもの場合、本人がチックの症状について自覚していないことがほとんどだと思います。チックを悪化させないためには本人に自覚させないことも重要なので、「何そのクセ?」「やめなさい」などと言って症状に注目しない方がいいこともあります。

周囲へ理解を求める

チックは単なるクセとの見分けが難しかったり、特に汚言症に関しては理解してもらうのが難しく誤解や叱責を受けてしまうこともあります。まずはチック症という病気があることを知ってもらい、もし親御さんが必要と感じるようであれば、学校の先生などに理解を求めてみてもいいと思います。

相談はかかりつけの小児科や児童精神科医へ

私は児童精神科医としてチックのお子さんの診察をすることもありますが、チックの症状というのは緊張した時は出にくい傾向があります。ですからお子さんにとって慣れない診察室では症状が見られないことも多いです。そのような場合はお家での普段の様子をビデオに撮ってきてもらって、それで診断することもあります。ただし先ほども申しましたように、チックは本人に意識させない方がいいので、ビデオを持って親御さんだけ来ていただいてお話しすることもあります。もちろん患者さん本人が来ないと診察できないとおっしゃる先生もいますので、あくまで私の場合としてご理解ください。

繰り返しになりますが、チック症は子どもにはありふれた病気なので、「もしかしてチックかも」と感じた場合でも、すぐに慌てて病院へ連れてきてもらう必要はないと思っています。ほとんどの子が自然に治るものなので、あまり気にせずに親御さんはドンと構えていただくことが、一番の治療法かもしれません。それでもちょっと重くなってきてしまったと感じる場合は、まずはかかりつけの小児科医か児童精神科へご相談してみてください。

精神科医さわ

sawa

精神科医

藤田医科大学医学部卒業。藤田医科大学病院にて初期研修後、精神科、神経科に勤務しながら児童から高齢者まで幅広い精神疾患に対して診療を行う。2021年、愛知県名古屋市に「塩釜口こころクリニック」を開院。精神保健指定医、日本精神神経学会専門医。二児の母

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