インタビュー

【子ども×芸術の専門家が解説】お絵描きで子どもの表現力を伸ばす親の寄り添い方

2022年5月24日 17:20

目次

    子どもがお絵描きをするようになったけれど、本人の好きなようにさせればよいのか、描いた絵にどんな意味があるのかわからない……とお悩みの保護者の方もいらっしゃるでしょう。

    国内外で長く幼児造形教育に携わる京都芸術大学 こども芸術学科 学科長の近江綾乃先生に親ができるサポートについて伺いました。

    子どもが線や形を描きだしたら、一緒に喜んで

    子どもが何を思い、どう表現するかは発達の段階によって変わります。一つ節目となるのが3歳前後で、言葉を使い始めて楽しみ出すという大きな成長を迎えます。

    それ以前は「いま・ここ・わたし」が中心だったのが、言葉を操り出すようになると、ものに名前があることを知り、ある程度抽象的に考えや時系列に基づいた思いが生まれます。そうすると、いま・ここにいるわたしが過去のことを思い起こしたり、ここにないものを欲しいと思えたりするようになっていくのです。

    こうした成長過程をたどるように、子どもの表現も段階的に変わっていきます。

    たとえば12歳の頃、子どもが最初に描くのは殴り描きのようなものでしょう。

    子どもはクレヨンを手に持って動かすと、線や形が現れることがわかり、ただ「おもしろい」のです。手先の感覚を覚えて感動したり、驚いたりしながら世界がどんどん広がっていく状態です。

    子どもの成長に照らしてみれば、肩、ひじ、手首が発達し、筋肉や神経の働きも伴って初めて、線を描くという動きにつながっていきます。ですからたとえ殴り描きであっても、最初に子どもが立った時やハイハイができた時と同じように、肩、ひじ、手首の発達や筋肉・神経の動きが順調に育っていることを喜んで欲しいです。

    自由な表現を受け入れ、そして一緒に楽しんで

    殴り描きの段階から、手首や肩をもう少し器用に動かせるようになると、線をぐるりと引っ張ってつなげた“まる”、つまり円形が描けるようになります。こうした変化は子どもに大きな発見をもたらし、「描くことが楽しくてしょうがない」気持ちになります。そうなると飽きるまで同じことを繰り返します。

    そのうちに言葉が出てくるようになると、大人の目には何だかわからなくても、「これは○○でねえ……」と子どもなりの思いを説明できるようになります。そこで「意味がわからない」と顔をしかめるのでなく、リラックスして話を聞き、一緒に楽しむことが大切です。

    ある時期に達した子どもがよく描く絵で、「頭足人」(とうそくじん)と呼ばれるものがあります。大きな円が顔で、そこから手と足が出ている素朴な絵ですが、子どもが人と向き合うことで「顔」を認識し、食べるものをつかむ「手」、お母さんについていく「足」など、自分と関わりのある体の部位が描かれます。不思議なことに多くの子どもが同じように描くのですが、これこそ発達の過程なのです。

    子どもの関心が広がると、次第に「他」の意識が生まれます。そうして他者への気持ちを馳せることでストーリーができ、社会性が生まれていきます。

    そこで大切なのは成長のプロセスであり、どんな絵を描いたかという「結果」にこだわるのではなく、その「過程」を一緒に味わうことにつきます。

    大人の安易な「評価」を押しつけない

    もう一つ子どもの絵について知っておきたいのは、幼児期の絵というのは自分の思いを表現しているもので、必ずしも見たままを写しているわけではないことです。

    大人が絵を描こうとする時、直接その物を見なくても、立体的な形を描くことができます。それはある種の方法として、立体を描く“技”を知っているからです。それを知らない子どもに「上手な絵を書いてほしい」と思うあまり、成長過程を無視して技だけを教えても、今度は描くことが嫌になってしまうでしょう。

    ですから自然な成長の段階を歩んでいけることが重要で、大人の勝手な都合で「上手」とか「下手」などの安易な評価を持ち込まないことです。

    表現は英語で「EXPRESSION(エクスプレッション)」といいますが、それは持っているもの、思っていることを外に向かって出すこと、アウトプットすることです。自由な表現をしながらすこやかに育ってほしいのに、大人の先入観を押しつけてしまったら伸びようとする芽を摘んでしまうようなものです。 

    子どもの問いに“応える”姿勢を

    子どもが楽しそうに描いた絵を見たら、そこにある子どもの思いを感じてあげてください。「上手ね」「すごいね」「よく描けたね」などというお決まりの応えよりは、「この線と線が重なっているね」とか、「とっても力強く描けたね」と、絵から見えたままをとらえて具体的に言葉に表すと、子どもは「わかってくれたんだ!」と嬉しく感じます。

    ときには子どもから質問をされたり、どう描いたらいいかわからないと打ち明けられたりすることがあるかもしれません。そんなときは質問に即、正しく「答え」ようとするのではなく、あえて子どもに、なぜその質問が出たのかを探る対話をして、「応える」会話を心がけてみましょう。

    「何が好きなの?」とか、「どうしてそうしたいの?」などと尋ねながら、子どもの頭の中をうまく整理してあげると、子どもの自然な気づきを促すことができます。そこで大切なのは親の都合で誘導するのではなく、あくまでも子どもの問いや探し求めようとする意欲を後押しすることです。

    子どもが夢中で描いているのに、「どうしてうちの子はこうなんだろう」とか、「もっと~~してほしいのに」などと思ってしまうときは、親のほうが自分の先入観や固定観念を考え直す必要があります。自由な表現に“正解”はないのですから、こうでなければと決めつけないこと。そして地球上にはさまざまな芸術表現があります。親も視野を広げることで、子どもと一緒に新たな学びを得る機会にもなるはずです。

    自由な表現ができる環境を整え

    子どもへのサポートとして親にできることは、子どもが描きたいときにいつでも描けるような「環境」を整えてあげることです。

    子ども任せにすれば散らかしたり、汚れたりすることもあります。ある程度は覚悟して、汚れてもいい場所、「ここなら大丈夫」というコーナーを設けるとよいでしょう。「これ以上はダメよ」と教えれば、子どもはちゃんと理解します。

    とはいえ夢中になるあまり、うっかり失敗をすることもあるでしょうが、そんなとき子どもはハッとして、自分が悪かったと気づくものです。そうしたら「今度はしないようにしようね」と諭すように伝え、萎縮することなく描き続けられるような声かけを心がけてください。

    なるべくなら画材などはすぐ使えるようなところに置いておくことです。描くものは紙である必要はなく、使い終わったカレンダーの裏、チラシの裏、つぶした箱など、何でもいいのです。

    さらにいえば、もし可能なら壁に絵を描けるスペースをつくると子どもはきっと大喜びするでしょう。4〜5歳の子でだいたい100㎝の背丈がありますから、壁に床から背の高さぐらいまで模造紙などを貼り、「ここならクレヨンを持って走ってもいいよ」というようにすると、子どもは動き回り、のびのびと自由な線や形を描くはずです。

    親にできることはこうしたサポートであり、できる限り既成概念を外し、子どもの成長を喜び、見守ろうとする姿勢だと思います。

    子どもが無邪気に“お絵描き”をしてくれるのは、子育てにおいても一時期です。親子が並んで同じ方向を向いて一緒に楽しめば、子どもの成長を後押しする貴重なコミュニケーションの場になることでしょう。そして、大人だって間違うことがありますから、子どもとともに考えていけばよいのです。

    近江綾乃

    ohmi ayano

    京都芸術大学こども芸術学科 学科長

    NY市立大学シティカレッジで立体造形修士課程修了、美術教育課程修了。モンテッソーリトレーニングディプロマ取得、国際バカロレア認可証取得、日本保育士資格取得。コネチカット州モンテッソーリ幼〜小学校美術教師、マンハッタン・メトロポリタンモンテッソーリスクールで美術科長、運営と授業に20年間携わる。土に興味を持ち、中南米、欧州、西アフリカ、インド、豪州を訪ね、その地域独自の土で作品制作。現地のアート教育活動に積極的に参加。共著 In Search of the Spirit (洋書)で日本重要無形文化財保持者と芸術作品を海外の子ども達に紹介。アトリエでは土と光を組み合わせた制作、Cocobolo DesignギャラリーNYCで発表を続ける。2016年より京都芸術大学こども芸術学科、学科長。資格免許課程造形専門科目担当、海外オルタナティブ教育や芸術・デザインを通した幼児教育実践領域を研究する。