子育てコラム

夏場に流行する食中毒とその対策

2022年5月2日 10:00

6月の梅雨時期以降、気温や湿度が高くなる季節からは食中毒の報告が増加しています。

食中毒は秋から冬に検出されるノロウイルスなどの「ウィルス性食中毒」と異なり、夏では「細菌感染性の食中毒」が多くなります。

症状は急性胃腸炎と同じであり、嘔吐・水様性の下痢・腹痛・発熱が主であり、血便を伴うこともあります。本記事では、原因となる細菌に関しての紹介と、食中毒予防に関して紹介します。

食中毒の原因となる細菌

・カンピロバクター

夏場の細菌性食中毒で最も多い細菌です。近年では、焼肉・焼き鳥などの飲食店に加えて調理実習やバーベキューなどでも発生例が増加しています。

主には加熱不良の肉類摂取からの感染が中心となります。消化管感染症は乳幼児・基礎疾患がある成人・高齢者が多い傾向にありますが、この菌の場合では乳幼児と20代から30代の若年者に多い傾向があります。十分な加熱調理と二次汚染防止を徹底すれば比較的容易に防ぐことはできます。

潜伏期間、他の微生物と比べて長く2日から7日です。症状は発熱、水様性下痢、腹痛が特徴であり血便を伴うこともあります。

新型コロナウイルスの流行下では、発熱を伴う下痢・腹痛で生活に支障がある場合には、発熱外来の対応が可能である医療機関を受診してください。

治療は、整腸剤や下痢止めなど、必要に応じてマクロライド系抗菌薬が使用されます

・サルモネラ

夏場では、加熱不良である卵が原因となることが多いです。このほか、牛、豚、鶏などの食肉であります。卵がけご飯が原因となるケースが増加しており、サルモネラによる食中毒で子どもが死亡した事例もあります。

賞味期限を過ぎている、あるいは保存療法が不良である卵は、夏季では摂取せず、70℃ 以上で1分以上の加熱をして調理してください。

潜伏期間は1、2日程度です。症状としては39度から40度近くの発熱、頻回の水様便・腹痛がみられ症状が強いことが特徴です。下痢の症状は34 日程度持続します。乳幼児・基礎疾患のある高齢者などでは、脱水症状による症状悪化が懸念されますので、経過が悪ければ医療機関を受診してください。

・黄色ブドウ球菌

黄色ブドウ球菌は私たちの体の皮膚・腸管などにも生息しています。免疫状態の悪化がなければ、体には症状がなく「保菌」しております。この菌から産生された毒素は熱に強いため、通常の加熱では分解されません。この菌は比較的高い食塩濃度でも増殖するため、夏場では漬物やおにぎりでも注意が必要です。

黄色ブドウ球菌の潜伏期間はすべての食中毒となる原因微生物の中で短いです。食後30分~6 時間以内に、急激な悪心・嘔吐・下痢・腹痛が強く生じます。特に夏のお弁当を屋外や車内などに置いたものは繁殖力が強くなります。

毒素による症状であるため発熱を生じることは稀です。ほとんどの例では1224時間以内に症状は改善し、抗菌薬などの特別な治療を要しませんが、脱水症状・血糖の低下など全身状態が悪化した際には輸液などの治療を要することがあります。

食中毒の予防方法

食中毒の予防としては、自分自身の健康管理が重要です。同じ食品を食べても症状が出る、出ないなどは様々であり、健康状態も大きな要素となります。寝不足、栄養不足、過労などでも免疫機能の低下があるため重症化する可能性があります。あわせて、自分自身の持病のコントロールを行うことも、新型コロナウイルス対策と同様に重要です。

このほかには、調理方法などの工夫で食中毒の予防は可能です。調理の前では手洗いをしっかりと行い、まな板などの調理器具も丁寧に洗います。 調理器具は、殺菌効果を高めるために洗った後で熱湯をかけると効果的です。生の肉・魚などの食材には細菌が付着していることが多いので食材を変えるたびに手を洗ってください。

食品の保存は10度以下の冷蔵が推奨されますが、カンピロバクターなどでは冷凍条件でも殺菌ができない場合があります。その反面、食品は加熱が有効であり、75度以上で1分以上、しっかりと食材の中心部も加熱してください。加熱済みの食品でも食べるときには、感染予防として再加熱をおすすめします。

武井智昭

TOMOAKI TAKEI

高座渋谷つばさクリニック 院長

小児科医・内科医・アレルギー科医。2002年、慶応義塾大学医学部卒業。多くの病院・クリニックで小児科医・内科としての経験を積み、現在は高座渋谷つばさクリニック院長を務める。感染症・アレルギー疾患、呼吸器疾患、予防医学などを得意とし、0歳から100歳まで「1世紀を診療する医師」として地域医療に貢献している。