インタビュー #言語

【言語聴覚士解説】赤ちゃんはいつから話す?発語を促すポイント&言語能力を高める方法

2023年9月7日 17:10

日に日にできることが増え、パパママに驚きと喜びをくれる赤ちゃん。その中でも特に楽しみなのが、初めてのおしゃべりかもしれません。そこで今回は言語聴覚士の鹿戸萌さんに、赤ちゃんの発語を促すポイントや言語能力を高めるテクニックなどをお伺いしました。

赤ちゃんはいつから話すの?赤ちゃんの「初語」とは?

初語とは赤ちゃんが最初に発する意味のある言葉のことです。話し初めなので、きれいな単語が出るということは少なく、多いのが「ママ」とか「まんま」、アンパンマンの「パンマン」などです。初語は1歳くらいから出るのが一般的ですが、もっと早い子もいれば2歳すぎる子もいるように個人差があります。

赤ちゃんは初語が出る前から大人の言葉をある程度は理解できていると考えられます。例えば「バイバイ」という言葉に対して手を振り返したり、絵カードを見せて「◯◯はどれ?」と聞くと指差しで答えられる子もいます。

言語能力の発達順序

ここでは子どもの言語がどのような段階を経て発達するかをご紹介します。ただし発達の度合いは個人差が大きく、はっきりと月齢で区切るのは難しいので目安としてお考えください。

<発語までの言語段階>

発声:最初に「あー」「うー」などの発声だけの時期があります。
喃語:次に喃語と言われる「マンマン」とか「ヤイヤイ」という言葉の段階があります。
初語:その後に先ほどご紹介した初語が現れます。

<発語後の言語段階>

①一語文
初語の後、正しい単語で一語文が言えるようになります。最初の単語が出てからは少しずつ言える単語が増えていきます。ある一定の水準に達すると話せる単語が爆発的に増える時期がきます。いわゆる「語彙爆発」と呼ばれる現象ですが、時期や程度にも個人差があります。

②二語文
話せる単語が増えてくると、その後は二語文で「ママ、帰る」というような二つの単語で話せる時期があり、それから三語以上の多語文「ママ、おうちに、帰ろう」といった感じに少しずつ助詞なども増えていきます。

③多語文
一歳で一語、二歳で二語、三歳で三語というのが一応の目安ではありますが、あまり月齢や年齢に捉われず、段階を追って発達していくと考えていただければいいと思います。

赤ちゃんに話しかけるときのポイント

初語を促すためにとにかくたくさん声かけをしなくちゃ、とプレッシャーを感じる方もいらっしゃいますが、そのような必要はありません。声かけをするときは次の3つのポイントを意識して少しずつ話しかけてあげてください。

①注目していることに関係する声かけ

赤ちゃんが見ていたり実際にやっていることに対する声かけをすることで、言葉の理解が深まります。

例:飛行機を見ていたら「飛行機だね」/歩いているときに「あんよが上手だね」

②身振りやジェスチャーを交えて

赤ちゃんにとっては耳で聞くことよりも目で見た方が分かりやすいので、視覚情報と聴覚状の両方を入れてあげると理解しやすいと思います。

例:うさぎの真似をしながら「うさぎさんだね」

③口の動きを見せながら話す

赤ちゃんや子どもは大人の真似をしながら言葉を覚えていきます。口の動きも真似できるようにしっかりと見せてあげましょう。

赤ちゃん言葉はやめた方がいい?

「赤ちゃん言葉は使わずに、最初から大人の言葉で正しく話しかけた方がいい」という考え方を聞くこともありますが、これは誤解だと思っています。むしろ赤ちゃん言葉こそ、最初に使ってほしい言葉です。ここでの赤ちゃん言葉とは、短い言葉や繰り返しの言葉で「ないない」「バイバイ」「あんよ」「ねんね」「まんま」などです。

赤ちゃん言葉には、母音や唇を合わせて発音する「ま行」「ぱぴぷぺぽ」「ばびぶべぼ」などの破裂音がたくさん入っています。これらは赤ちゃんが聞き取りやすく覚えやすい音で、真似しやすいのでむしろ推奨したい言葉です。

ただし同じ赤ちゃん言葉でも、大人の言葉の「〜ですね」を「〜でちゅね」というような、発音の誤りをわざと真似る声かけはなるべく避けるようにしてください。

子どもの言語力を育てる3つのテクニック

少し専門的な話になりますが、子どもの言語力を伸ばすためにことばの教室で取り入れている考え方や手法を一部ご紹介します。

①三項関係を育てる

コミュニケーション能力を発達させるためには「三項関係」というものを育てることが大切だと言われています。三項関係とは、自分(赤ちゃん)と相手(ママやパパ)とモノの3つの関係のこと。

赤ちゃんは最初、目の前のママやパパにだけ注目して話したり、おもちゃがあればそれだけを見て一人で遊びます。これは自分と相手、または自分とモノの「二項関係」ですが、やがて3つの関係が意識できるようになると、そこにコミュニケーションの必要性が出てきます。例えばおもちゃを取ってほしければ指差しをしてママにお願いをしたり、会話でやり取りをするようなことです。これができるようになるためには、三項関係を意識させることが大切になります。

②パラレルトーク

子どもの言語力を育てるための手法の一つにパラレルトークというものがあります。これは子どもの行動や気持ちを言語化するもので、例えば食事中であれば「ごはんおいしいね」「たくさん食べたね」といったもの。子どもが見ているもの、やっていること、感じていることを言葉にして聞かせてあげてください。

③セルフトーク

パラレルトークが子どもの行動や気持ちを言語化するものだったのに対し、セルフトークは大人自身の行動や気持ちを言語化するものになります。例えば、「ママ、抱っこしてあげるね」や「ママ、うれしいな」といったものです。

パラレルトークもセルフトークもまだ話し出す前や喃語の状態の赤ちゃんへの声かけとしてもおすすめです。ぜひ意識してやってみてください。

もしかして言葉の遅れがあるかもと感じたら

赤ちゃんの発語を促すためには適切な言葉がけをするほかにも、脳やお口の機能を正しく育てることも大切です。そのためには食事の栄養バランスやしっかりとした睡眠、全身を使った協調運動ができているかも関係してきます。ですがもともとお子さんに障害がある場合は、ご家庭の対応だけでは難しく、専門家にきちんと診てもらうことが必要です。

お子さんが2歳頃から言葉の遅れに気付いたり、3歳児検診で指摘されて受診される方も多くいらっしゃいます。今はインターネットでもさまざまな情報が得られるので、ご自分で調べて余計に不安になってしまう親御さんも多いのではないでしょうか。言葉が遅れる理由も人それぞれなので、まずはお近くの医療機関や児童発達支援センターに行って相談をしてみることをおすすめします。そしてその子に本当に合った支援方法を見つけてあげてほしいと思います。

鹿戸萌

shikato moe

言語聴覚士

言語聴覚士、ことばの教室コトモリ代表。大学卒業後、回復期病棟、児童デイサービス勤務を経て、2021年に開業。フリーランスの言語聴覚士として個人の活動の他、札幌市内の児童デイサービスの外部講師として、自身の経験を活かしながら子どもの心を重視した楽しい支援を心がけている。

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