子育てコラム #言語

言葉が遅い?話かけても聞いてない?子どもの言葉の発達を言語聴覚士が解説

2022年6月21日 10:00

お子さんの発達について「言葉が遅れているのではないか」という悩みや心配の声がよく聞かれます。

今回は子どもの「言葉の発達」について重要視されていること、周囲の大人ができることを言語聴覚士の視点でお伝えしていきます。

お子さんとどんな会話をしていますか?

普段子どもとどのような会話をしているか振り返ってみましょう。

「質問しても噛み合わない答えが返ってくることがある」「さっき言ったことを全然聞いていない」「なかなか言葉を話さない」など、会話の成立が難しいと感じることはないでしょうか。

言葉の発達が遅いのではないかと心配する声は、13歳の子どもを持つ親御さんからよく聞かれます。しかし、その年頃の子どもの発達は非常に個人差が大きく、言語聴覚士などの専門家が評価しても、発達の遅れははっきりと分かることが少ないのが現状です。

また、「言葉の発達」と聞くと、話している言葉の方が気になるかと思いますが、言葉の発達は話すことだけではありません。周囲の人の話を聞くことができることも重要です。

聞くことの重要性

「よく聞こえない」、「聞いても意味がわからない」、「聞き取れない」は、同じ「聞いていない」でも原因が異なります。

「よく聞こえない」は、そもそも音としての刺激が正確に脳に入力されていない場合のことです。これは聴覚障害や難聴である可能性があります。

「聞いても意味がわからない」では、自閉症スペクトラムの症状のひとつである、意味理解の障害が原因かもしれません。「ようちえんいこう」が「幼稚園以降」「幼稚園行こう」が「用遅延移行」など、同じ言葉かけでも単語として認識できず、なんと言われているか分からなくなってしまいます。

「聞き取れない」は、話しかけたときに他に見えるものや聞こえる音に気を取られ、聞こえたことに対してのみ返事をしてしまっていることがあります。注意欠陥多動症(ADHD)などが原因として挙げられます。

どの症状に対しても共通することは、「ゆっくり、はっきり、区切って、顔を見て」話すことが大切です。加えて、身振りや指差しもつけることにより、視覚的な注目を集めることができ、聞き取れなくても「このことを言われているんだ」という理解につながります。

そして、インプットがなければアウトプットに繋がりません。言葉の発達は、言語の表出よりも理解が先というのが発達の領域では通説となっています。

例えば植物に水をあげたい場合はジョウロに水を溜めます。ジョウロに水が溜まらないと十分な量の水は出ません。言葉の発達も同様で、言葉の理解が蓄積されなければ話す言葉はバリエーションが少なく、同じ言葉の繰り返しになってしまいます。

語彙が増える話しかけ方

子どもの言葉を豊かに育てる方法のひとつに「インリアルアプローチ」というコミュニケーションがあります。インリアルアプローチとは相互に反応しあうことで、学習とコミュニケーションを促進する手法です。4つのSOUL(Silence/Observation/Understanding/Listening)をもって子どもに接し、自然な遊びの中で子どもの自発的な表現を引き出します。

S/Silence(静かに見守ること)
O/Observation(よく観察すること)
U/Understanding(深く理解すること)
L/Listening(耳を傾けること)

具体的な行動と言葉かけを説明します。

◎ミラリング :子どもの行動をそのまま真似する
【例】子どもが手を挙げたら大人も同様に手を挙げる。

◎モニタリング:子どもの発話を真似する
【例】子どもがお母さんを見て「まま」と言った際に大人も「ままだね」と肯定する。

◎パラレル・トーク:子どもの行動や気持ちなどを代わりに言語化する
【例】子どもが黙って犬のおもちゃを動かしているとき、大人が「わんわん、遊んでいるね」と場面に合わせたことばをかける。

◎セルフ・トーク :大人自身の行動や気持ちなどを言語化する
【例】大人が犬のぬいぐるみを動かしながら「先生もわんわん、走るよ」とことばを添える。

◎リフレクティング:子どもの発音、意味、文法、使い方等様々な言葉の言い誤りに対して、正しく言い直して返す
【例】子どもの「おでけけ」に対し,「違うよ」と否定することなく「おでかけだね」と返す。

◎エキスパンション:子どもの言った言葉を意味的や文法的に広げて返す
【例】車を指さして「ブッブー」に対しては「ブッブーが走るね」「大きいブッブーだね」「赤いブッブーだね」などと特徴を付け加えて返す。

◎モデリング:子どもの話題に合わせて、子どもの使うべき行動や新しいことばのモデルを示す
【例】子どもがジュースを飲んでいるときに「ごくごく、おいしいね」と場面に合わせた言葉を示す。

おわりに

子どもたちは生活や遊びの中で言葉を学習していきます。聞くことによって、言葉は増えていくものです。そのためには周囲の大人が先立って説明することが重要となります。

それでも心配な場合は適切な医療機関、療育機関での評価が必要となりますが、個人差は大いにあるため、ジョウロに水を溜めるように言葉かけをしてみてください。

奈良 佳奈

nara kana

言語聴覚士

国際医療福祉大学保健医療学部言語聴覚学科卒業後、東京湾岸リハビリテーション病院にて勤務。働きながら、より高度な知識を身につけるため、上智大学大学院博士前期課程言語科学研究科言語学専攻修士課程を修了。現在は、ULU訪問看護ステーションに所属し、言語聴覚士として横浜市近辺の子どもから高齢者までコミュニケーション障害、摂食嚥下障害、高次脳機能障害の方への臨床に従事している。