インタビュー #授乳・断乳

1歳過ぎると薄くなる?母乳の栄養と授乳を続けるメリットを助産師が解説

2022年12月10日 11:05

赤ちゃんの成長に大切な母乳。でも、ずっと与え続けていても母乳の栄養成分は変わらないままなのでしょうか?

今回は、もうすぐ4児のママになる助産師hanaさんに、赤ちゃんに合わせて変化する母乳の栄養と授乳を続けるメリットについてお話を伺いました。

母乳は赤ちゃんを守るスーパーフード

母乳と粉ミルクは基本的には同じ成分でできていますが、母乳にしか含まれないものもあります。それは病原菌やウイルスに対抗するための免疫物質や消化酵素、成長因子など。これらは赤ちゃんを感染症などから守ってくれる大切な成分です。

赤ちゃんが産まれてからすぐに出てくる母乳を「初乳」と呼びます。初乳には赤ちゃんの腸内環境に良い影響を与えてくれるオリゴ糖もたっぷり。その他にも、生後間もない赤ちゃんに必要な成分がくまなく含まれているので、母乳育児が難しい場合でも初乳だけは飲んでもらえたらと思います。

赤ちゃんに合わせて母乳は変化する

初乳が出るのは産後から1週間程度で、この間に出る母乳はごく少量。出産2日目くらいまではじわじわと出る程度です。それは産まれたての赤ちゃんの胃の大きさに合わせているから。よく「量が出ない」と落ち込むママもいらっしゃいますが、そのような必要はありません。

初乳は黄色っぽくかなりネバネバとしていますが、その後は白っぽくサラサラとした性状に変化します。これを成乳と呼んでいます。色や性状だけではなく、母乳は赤ちゃんの置かれた環境に応じて成分も変化します。例えば家族全員で風邪を引いた時は、風邪に対抗するための免疫物質が多く含まれるという研究報告もあります。赤ちゃんの健康状態や環境にも合わせて成分調整が行われる。母乳は完全オーダーメイドなのです。

よく1歳を過ぎると母乳が薄くなるのではないかという質問がありますが、赤ちゃんが飲む量に応じて含まれる成分を母乳の方が調整してくれています。赤ちゃんに必要な成分量を一定に保つために、夏のように水分がたくさん必要な状況だとその分成分は薄くなるし、逆に1日に飲む総量が減ると濃度が濃くなる場合もあります。

母乳だけでは足りない栄養は?

母乳に不足している栄養としてよく言われているのが、鉄分、ビタミンD、ビタミンKです。このうちビタミンKは産後すぐにケイツーシロップを飲むことで補えます。ビタミンDに関しては、日光に当たることで、体内で合成できるので日光浴をおすすめします。

鉄分については、多くの赤ちゃんが体内に貯蓄した状態で産まれるので、生後しばらくは母乳やミルクで得られる量で問題はありません。

ところが6ヶ月頃になると蓄えていた分では、鉄分が不足するようになります。同じく6ヶ月頃からは母乳やミルクだけではエネルギーも足りなくなります。このことから、一般的には6ヶ月頃から離乳食を始めるとよいとされているのです。

ところでこの「離乳食」ですが、現在WHOの方では「補完食」という新しい考え方を提唱しています。これは赤ちゃんの月齢が進んで大きくなることで、さまざまな栄養やエネルギーが母乳やミルクだけでは不足するので、食事によってこの差を「補完」しましょうというもの。母乳から移行するための食事というこれまでの考え方から、母乳やミルクを続けながら成長に必要な栄養を補うための食事という考え方に変わってきています。

ママは我慢をしすぎなくていい

母乳育児を続けていると、食べるものに気を使い過ぎてしまい、それをストレスに感じているママもいるかもしれません。例えばよく言われるのが、乳製品やクリームたっぷりのケーキ、お餅などを食べ過ぎると乳腺が詰まるという話。実はこれには科学的根拠がないと言われています。

卵を食べ過ぎると赤ちゃんが卵アレルギーになるというのも同じ。そして母乳に鉄分が不足するからといって、ママが鉄分をたくさん摂取しても母乳の成分にはほとんど影響はありません。母乳はママの栄養状態に左右されず、常に赤ちゃんに必要なものを出してくれる仕組みになっているのです。

ちなみに乳腺炎に関して気をつけたほうがいいのは、授乳リズムの乱れやストレスなど。例えば帰省や旅行などによって授乳のタイミングがずれる、シートベルトで胸の辺りが長時間圧迫されて血行が悪くなる。食事よりもこのようなストレスの方が乳腺が詰まる原因にも。

食べられないものが多いので母乳育児をやめるくらいなら、そこまで気にせず食べながらでも継続するメリットの方が大きい。海外ではそのような姿勢に変わってきているようです。

母乳育児を続けることのメリット

母乳には赤ちゃんにもママにもたくさんのメリットがあります。

赤ちゃんには、感染症や肥満の予防、歯並びにも良い影響があり、ママには乳がんや子宮がん、卵巣がん、糖尿病や高血圧のリスクも下がるという研究結果が報告されています。

1歳を迎える頃や保育園に入園のタイミングで、母乳をどうしようかというご相談はたくさん寄せられます。でも中には、職場復帰をするから断乳をしなければ、と思い込んでいる方もいらっしゃいます。保育園に預けていても母乳育児を続ける方法はありますし、長い時間離れるからこそ、帰宅後の授乳がママとお子さんの癒しの時間になるというメリットもあると思います。

それでもキッパリと断乳すると決めたなら、まずはお子さんにそのことをきちんとお話してください。ひどく泣かれてしまうから、途中で断乳をあきらめてしまうママもいらっしゃいますが、それだとかえってお互いしんどいことに。断乳すると約束した日まで、必ず覚悟を決めてやり遂げることが大切です。具体的な方法は、助産師が個別にアドバイスをさせていただきますので、ぜひお近くの助産院にご相談ください。

子育てで迷ったら助産師を頼って

子育て中は、メディアからの情報や周りの言葉を聞いて、戸惑ったり、不安になったり、傷ついたりすることが多いもの。でも、「大変だな」と感じた時は子育てを頑張っている証拠なので、まずはご自分を褒めてあげてください。そして迷った時こそ、自分とお子さんが心地よいと感じる方を選んで過ごしてほしいですね。

助産師はお産の時だけではなく、産後何年経っても子育てをするママをサポートします。助産院で出産をしていなくてもお話を伺いますので、ぜひ全国にいる助産師を頼ってほしいと思います。

助産師hana

jyosanshi hana

助産師/保健師/看護師

助産師/保健師/看護師 福島県立医科大学看護学部を卒業後、18年間助産師として、総合病院、地域助産師会、助産院、オンラインなど様々な形で妊娠出産・子育てをサポート。2022年にオンライン専門の「愛のはな助産院」開業。開業1年半で子育て講座受講者が1,000人を超える。