インタビュー

妊娠・出産はいくらかかるの?給付金はどのくらいもらえるの?お金のプロが丸ごと解説!

2022年12月2日 10:09

妊娠・出産は国の公的保険が適用されないため、基本的には全て自己負担になります。

「それでは大変な費用がかかってしまう!」と心配された皆さま、どうぞご安心を。日本にはそれらの費用をカバーしてくれるさまざまな公的制度があります。今回は、ファイナンシャルプランナーの郡洋子さんに妊娠・出産に関する費用と給付金についてお話を伺いました。

妊娠・出産した全てのママにかかる費用

①妊婦健診費

妊娠したかどうかを調べるために産婦人科で検査をし、そこで妊娠判定がされると、妊娠時期に合わせて妊婦健診が始まります。選ぶ病院や、妊婦さんと赤ちゃんの状態によっても健診費用は異なりますが、毎回5,000〜8,000円ほど。妊婦健診費は自治体から助成が受けられるものの、初回の妊娠判定検査は適用外なので、この分は全額自己負担になります。

②入院・分娩費用

正常分娩の場合は全額自己負担になりますが、その額は都道府県で差があります。例えば、最も高い東京都で平均62万円、最も低い鳥取県で平均39万円。こちらは選ぶ病院によっても大きく変わってきます。

③ベビー用品費

産後すぐから使う赤ちゃんのお世話グッズとして、オムツやお尻拭き、ベビーウェアや肌着などがあります。それぞれ高額ではありませんが、頻繁に買うことになるので、必ずかかる費用として考えておきましょう。

妊婦さんや出産によって差が出る費用

妊婦さんの健康状態や出産への考え方などによって、実際にかかる費用は大きく変わります。ここでは、全てのママにかかる費用以外で人によって自己負担額に差が出る項目をピックアップしました。

①出生前診断

お腹の中の赤ちゃんの体に異常や染色体疾患がないかを調べる検査で、精度やリスク、検査ができる妊娠時期によっていくつかの方法があります。費用にも差があり、血液検査で2〜3万円程度、羊水検査で6〜20万円ほどかかります。

②入院個室代・差額ベッド代など

入院に個室や少人数部屋を希望する場合は、入院分娩費にプラスで個室料金や差額ベッド代がかかります。選んだ病院によって大きく変わってくる部分なので、しっかり確認しましょう。

③その他(ベビー用品、内祝いなど)

ベビーベッドや抱っこ紐、車のベビーシートなど、あると便利なお世話グッズは、選び方で差が出る部分。やりくり次第で上手に抑えることも可能です。また出産祝いなどをいただいた場合は内祝い分も考えておきましょう。

④不妊治療費

ここまでのものとは少し異なりますが、妊娠にまつわる大きな費用として不妊治療費も外せません。人工授精で1回あたり3〜5万円、体外受精で50〜80万円と非常に高額ですが、2022年4月から保険が適用になったので自己負担額が大幅に軽減されるようになりました。

妊娠・出産した全てのママがもらえるお金

①妊婦健診費の補助

初回の産院検査で妊娠判定が出た後、お住まいの自治体に妊娠の届出をすると、母子手帳と一緒に妊婦健診で使える補助券がもらえます。こちらを健診の支払いで使うことで、自己負担額が軽くなります。

②出産一時金

健康保険に加入している本人または扶養家族に支払われるお金です。子ども一人につき42万円(※1)、双子であれば84万円になります。出産一時金の受け取り方は次の3つです。

1)産後申請制度
出産した病院にいったん全額を支払った後、加入している健康保険組合などに請求を行う方法

2)直接支払制度
出産する病院で事前に手続きをして、退院時に42万円(※1)を超えた場合の差額のみ支払う方法

3)受取代理制度
直接支払制度を導入していない病院の場合は、妊娠9ヶ月以降に加入している健康保険組合に申請。退院時に42万円(※1)を超えた場合の差額のみ支払う方法

※1:産科医療補償制度に未加入の病院で出産する場合は400,800円

③高額療養費制度

帝王切開や吸引分娩などの、いわゆる「異常分娩」と呼ばれる出産は、医療行為と見なされるので保険適用になります。3割の自己負担額でさらに高額療養費制度が利用できます。高額療養費制度とは、高額な医療費を支払った場合に、所得額に応じて一定額を払い戻してくれる制度です。加入している健康保険組合によっては、申請なしで自動的に払い戻しされますが、国民健康保険など申請が必要なケースもあります。

会社で働いているママがもらえるお金

①出産手当金

勤務先の健康保険に加入している本人を対象に、産休中(産前42日、産後56日)の経済的なサポートとして支払われる手当金です。会社員に限らずパートやアルバイトでも健康保険に加入していれば対象です。また制度改正によって、入社1年未満でも長期雇用が前提であれば、出産手当金を受け取ることができるようになりました。ただし標準報酬月額の計算方法が異なるため、金額は下がります。

・出産手当金の1日あたりの金額の出し方
=支給開始日前1年間の給与月額の平均÷30×3分の2

出産手当金の申請は一般的には出産後になります。申請書には出産した病院が記入する部分もあるので、産休前に会社から申請書を受け取っておきましょう。

②育児休業給付金

産休後に休業する人に支払われる手当で、勤務先で雇用保険に加入している人が対象になります。出産手当金と同じく雇用保険に加入していればパートでもアルバイトでも受け取ることができます(一定の条件あり)。

支給額は、育児休業開始から6ヶ月間は給料の67%、以降は50%になります(上限あり)。ちなみに育休は保育園が決まらないなどの事情がある場合は2回まで延長ができ、最長で2歳まで取得が可能です。

申請の手続きは勤務先で行ってもらえるのが一般的なので、育休を取ると決めたらすぐに勤務先に伝えるようにしましょう。

育休を取得したパパがもらえるお金

育児休業はパパでも取ることができ、ママと同じ条件で給付金を受け取ることができます。これまでの育児休業は原則1回しか取得できないため、まとめて長期間休むことが難しい方には取りにくいという声もあがっていました。そこで2022年の制度改正で新設されたのが「産後パパ育休」です。

産後パパ育休とは、産後8週間以内に28日間、2回に分けて取得することができます。途中で1回仕事に復帰できるので、2週間まとめて休みにくいパパにも取りやすい制度です。また、その後の育休も男女とも2回の分割が認められるようになりました。つまりパパの場合は合わせて4回の休業に分けることができます。さらに産後パパ育休中は、休業中であっても限られた範囲で働くことが認められ、ますます柔軟に休業できるようになりました。

パパの給付金についてはママと同じく、育児休業開始から6ヶ月間は給料の67%、以降は50%です(上限あり)。産後パパ育休は原則休業の2週間前までに、育児休業は1ヶ月前までに会社に申請する必要があります。

子どもに関するマネープランは妊娠前に

妊娠・出産にかかる費用は、お住まいの地域や選ぶ病院、妊婦さんや赤ちゃんの状態によってさまざまです。残念ながら、ここにあげた全ての給付金を取得しても、それだけで何もかもカバーするのは難しいのが現実。ですから最低でも50万円ほどは事前に準備できると安心かもしれません。

負担を少しでも軽くするために、ベビー用品などはお下がりやレンタルを利用することもおすすめ。また妊娠中のトラブルや異常分娩に備えて、医療保険の見直しをしておくのも一つの方法です。ちなみに民間の保険は妊娠中の契約になると、その出産は保障の対象外になるので、妊娠前に検討しましょう。

ご紹介したように、日本には妊娠・出産の費用をカバーするための制度が色々と用意されています。それらを上手に利用するためには、制度内容をよく知っておくことが大切です。さらに健康保険や雇用保険の加入が条件になる制度も多いので、出産を考えている方は、今後の仕事選びにも参考にしてみてはいかがでしょうか。

妊娠・出産に限らず、子育てにはお金がかかるもの。家族全員の人生をトータルで考えたマネープランを妊娠前から準備できるといいですね。

郡 洋子

koori youko

1級ファイナンシャルプランナー

1級FP技能士/MDRT会員 早稲田大学卒業後、商社の海外営業・外資系生命保険会社を経て独立系のファイナンシャルプランナーに。保険活用を得意とするFPとして、保険や家計の見直しをはじめ、ライフプランニングや資産形成、相続や税務などの相談に乗っている。一児の母。