インタビュー

脳科学者・瀧靖之氏が解説…子どもの脳の成長に重要な3つのポイント

2022年3月10日 16:54

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    勉強ができて、運動や音楽にも能力を発揮できる。わが子がそんなふうに育ってくれたら、親としてとても嬉しいですよね。そのために、さまざまな習い事をさせたり、早くから学習をさせたり、パソコンに触らせたり…。さまざまな努力をされている親御さんがたくさんいます。「脳の発達」の専門家である脳科学者、瀧靖之先生は、本記事にて子どもの能力には生活習慣が大きく関わっていると語ります。

    子どもの能力と生活習慣にはどのような相互関係があるのか。また、どんな日常を送れば脳の発達を促せるのか。詳しく見ていきましょう。

    脳の発達には大量のエネルギーが使われている

    脳のなかには、さまざまな電気信号をやりとりする道がたくさん存在します。外的刺激を受けることで、誕生直後から次々に道が生まれ、複雑な構造が作られていきます。

    大人でも筋肉を使うような運動をしていなくても、頭を使うと甘いものが食べたくなりますよね。それは、脳を使うことでエネルギーが使われているからですが、子どもの脳は大人の1.5〜2倍ものエネルギーを消費するといわれていますから、大人より多くのエネルギーを摂取しなければならないのです。

    脳内に高速道路をつくる!そのためにエネルギーが必要

    脳内にたくさんの道ができて複雑になりすぎると、今度はいくつかの道を統括する強い道が作られます。道路に例えれば、高速道路をつくるようなものです。新たな回路をつくることで、古い道は刈り込まれ、脳内の回路は整えられていきます。

    算数で九九を覚えるのは大変ですが、そこから先はひっ算や割り算への応用がどんどん進みます。ピアノの楽譜を読みドレミを理解するのは大変ですが、ある程度弾けるようになると次々に新しい曲が弾けますよね。

    感情でもそうです。赤ちゃんのときは人の声や表情に対して「心地いい」かそうでないかの判断しか持たなかったのが、成長するにつれ、人の表情を読んだり、声のトーンで相手の機嫌を察することができるようになります。

    脳の発達の途中で、初期の道を刈り込み、新たな強い道が完成することで、人としての能力を高めていくのです。

    朝食に選ぶべき主食とは?

    当然、エネルギーは「食事」から摂取します。基本は3食を決まった時間に食べること。なかでも、もっとも大切なのは朝食です。多くの研究で、朝食をきちんと食べている子は学業成績が良いと報告されています。

    では、どんな朝食がよいのか気になると思いますが、特に大切なのは砂糖を多く使われているものを日々の主食にしないことと、Glycemix index(GI)値の高くない食品を食べることです。大人でも糖尿病予防やダイエットのために糖分の摂りすぎやGI値を気にしている人は多いと思います。

    GI値の低い食品は、血糖値をゆるやかにあげていきます。そのため長時間血糖値がある程度高い状態が維持されますから、効率的にエネルギーを使うことができます。反対にいっきにGI値を上げてしまうと、疲労感を感じやすく、集中力を失ってしまう可能性が考えられています。

    おすすめは主食に砂糖を使わないものを選ぶこと。菓子パンやシリアルは避け、玄米、白米、食パンなどを主食に食べさせるようにします。もちろん砂糖がすべてよくないというわけではなく、朝食の主食では避けてほしいのです。

    睡眠を削ると学習能力が落ちる⁉

    生活習慣で大事にするべきことの2つ目は「睡眠」です。

    睡眠が不足すると、脳の中での「細胞増殖」と、神経が新しく作られる「神経新生」が妨げられるというのは、私たちが行った研究でも明らかになりました。5〜18歳の健康な子ども290人に対して、睡眠時間と脳の海馬の体積の相関関係を調査、分析を行いました。

    海馬は学習や記憶、空間認知を司る部位ですが、睡眠時間を十分とっていない子は、十分とっている子に比べて海馬の発達が抑えられてしまうことが明らかになったのです。「寝る子は脳も育つ」ということが科学的に証明されたわけです。

    反対にいえば、睡眠時間を削ってゲームやスマホに興じたり、無理を押して勉強するのは脳の発達を抑えることになりかねません。適切な睡眠時間には個人差がありますが、未就学児であれば10時間以上の睡眠は確保するようにしてほしいと思います。

    海馬を成長させるには運動が有用

    最後の生活習慣は「運動」です。睡眠のところでも登場した海馬は一生涯成長し続ける珍しい部位です。記憶や学習に関与する部位ですから、海馬が成長し続けると、何歳になっても新しいことを吸収する力を発揮できます。

    ただし、海馬が成長するには適度な運動が有用といわれています。多くの研究で明らかになっているのですが、中等度の運動をしてから学習をすると注意力がアップし、学習効果が上がることがわかっています。また、技術を伴う運動をする前に軽いランニングをしておくと、技術習得によい影響が出るともいわれています。

    幼児期は運動といっても、特別なことは必要ありません。公園で鬼ごっこをするとか、縄跳びをするとか、遊びの中で運動ができれば十分です。遊びがゲームや動画視聴ばかりになっていると、海馬の成長を妨げかねませんし、肥満の原因にもなります。もし、一日中、ゲームやスマホを与える環境にしているようであれば、ぜひ見直してほしいと思います。

    学習効果を上げて、子どもの能力を高めるためには「睡眠」「食事」「運動」が大切です。脳を健やかに発達させるためにも、学習能力に深い関係のある海馬を活性化させるためにも、生活習慣に着目してみてください。

    瀧 靖之

    YASUYUKI TAKI

    医師・医学博士

    東北大学大学院医学系研究科博士課程卒業。東北大学加齢医学研究所機能画像医学研究分野教授。東北大学東北メディカル・メガバンク機構教授。 東北大学病院加齢核医学科長としての画像診断、東北大学加齢医学研究所で脳のMRI画像を用いたデータベースを作成し、脳の発達、加齢のメカニズムを明らかにする研究者として活躍。読影や解析をした脳MRIはこれまでに16万人にのぼる。「脳の発達と加齢に関する脳画像研究」「睡眠と海馬の関係に関する研究」「肥満と脳萎縮の関係に関する研究」など多くの論文を発表。学術誌はじめ新聞・テレビなど、マスコミでも数多く取り上げられ注目を集めている。