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おたふく風邪が原因で難聴に!?おたふく風邪の症状と予防法とは?【小児科医解説】

2023年1月6日 10:00

冬に気になる感染症のひとつに、おたふく風邪があります。ほっぺたが腫れて熱が出る、子どもだけの病気、早くかかった方がいい。そんな「軽い病気」と考える方も多いようですが、実は思わぬ病気を引き起こす可能性も。

今回はおたふく風邪の症状や注意した方がいい合併症、そしてワクチン接種の重要性について、小児科医テルさんにお話を伺いました。

おたふく風邪とは?

おたふく風邪の正式名称は「流行性耳下腺炎」。耳の前から下側にかけて「耳下腺」という唾液腺があり、その部分が炎症を起こして腫れる様子が「お多福」に似ていることから「おたふく風邪」と呼ばれています。

原因となるムンプスウイルスに感染すると、2〜3週間の潜伏期間を経て発症します。患者の約6割が6歳以下の子どもで、保育園や幼稚園などの集団生活が始まった頃から感染しやすくなります。ウイルスは唾液中に大量に存在するため、咳やくしゃみなどの飛沫やお友達と触れ合うことによる接触感染で広まります。

潜伏期間がとても長いことと、症状が出る45日前から感染力があるので、お友達の発症が分かったタイミングではすでに感染していることも多く、予防が難しいのも特徴の一つです。

基本的には一度感染したり、ワクチン接種によって免疫ができたりすると、その後ほとんどかかることはない感染症と言われています。

おたふく風邪の診断基準と症状

おたふく風邪にはインフルエンザのように、その日に感染を確認できるような検査薬がないため、耳下腺の腫れと周囲の感染状況を見て総合的に感染を判断します。お子さんが耳の下あたりの痛みを訴えたり、食べ物を噛んだり飲み込む時に痛い、触ってみて腫れている場合は感染が疑われるので、かかりつけ医に相談してください。

耳下腺の腫れは、ほとんどの場合両側ともに現れますが、片側の場合もあります。48時間以上痛みと腫れが続き、38度程度の発熱を伴うこともあります。

また感染しても症状の出ない「不顕性感染」も3割ほど見られます。

注意が必要な合併症「ムンプス難聴」

おたふく風邪にかかってもほとんどの場合は軽症で済みますが、ごくまれに髄膜炎や精巣炎、卵巣炎、膵炎などの合併症を引き起こすことがあります。頭やお腹の強い痛みを訴える場合は、すぐに病院にかかってください。

これらの合併症よりもさらに注意が必要なものに「ムンプス難聴」があります。以前は数万人に一人と言われていた合併症ですが、最近の調査ではその100倍近くの患者がいるとも言われています。

ムンプス難聴は、ムンプスウイルスが内耳に感染することで発症し、多くは片耳に高度難聴が生じます。高度難聴とは、近くにいる人の話し声を聞き取ることができず、耳元で大声で話しかけられないといけないような状態・レベルの難聴のことをいいます。片耳の場合、特に年少児では日常生活の中で聞こえの悪さを自覚しにくく、ある程度成長してから判明することがあります。

現在、ムンプス難聴には治療法がなく、かかってしまうと永続的な障害として残ってしまうことも。おたふく風邪にかからないことだけが、唯一の予防策になります。

おたふく風邪発症時にお家で看病する時のポイント

おたふく風邪そのものに効く治療薬はないので、基本的には対症療法になります。発熱や耳下腺の痛みに対してはアセトアミノフェンなどの解熱鎮痛剤が有効です。痛みが辛そうな場合は、腫れた部分を冷やしてあげてもいいでしょう。

大きく口を開けたり、物を噛む時に痛みが出たりするので、脱水症状に気をつけながら、消化が良く食べやすい物を用意してあげてください。また酸味の強いものも痛みを増す原因になります。

熱は通常、16日程度で下がり、腫れは37日で引いていきます。登園・登校は、腫れが出てから5日を経過して全身状態が良くなってからになります。

同居する家族全員がおたふく風邪のワクチン接種済み、または感染したことがある場合は、看病の際に隔離をする必要はありません。ただし高齢の方や免疫抑制剤を使って病気療養中の方が同居している場合は注意が必要です。

おたふく風邪の予防にはワクチン接種を

おたふく風邪を予防し、ムンプス難聴などの合併症にかからないようにするためには、ワクチン接種が最も有効です。2回接種でほとんどの方に免疫ができるので、お子さんが1歳以降、集団生活に入る前までに済ませてあげると安心です。ワクチンは任意接種になるので、1回につき3,0008,000円の費用がかかります。

残念ながら日本では、おたふく風邪のワクチン接種率が40%と低いため、今後も大規模に流行する可能性があります。また、おたふく風邪の症状は年齢が上がるほど重症化しやすく、成人以降もムンプス難聴にかかるケースも。これを機会に、一度ご両親やおじいちゃん、おばあちゃんの感染歴とワクチン接種についても確認しておくといいかもしれません。

ワクチン未接種の場合は、医師に相談の上、なるべく早めに2回の接種をおすすめします。周囲に流行が確認されてからでは、すでに感染している場合も考えられるからです。ちなみにワクチン摂取後、2ヶ月間は妊娠を避けた方がいいので、これからお子さんをお考えの方はぜひ早めのご検討を。

新型コロナウイルスやインフルエンザと同様に、手洗い・マスク・アルコール消毒も有効なので、予防接種に加えてぜひ継続してください。

小児科医テル

syounikai teru

小児科医

1980年生まれ。大学医学部を卒業後、大学病院の研修医を経て、一般病院の小児科医として勤務。インスタグラムやYouTubeなどで子どもの病気や育児について情報発信をしている。一児の父。

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